ソウルインベスターへの道 〜ベンチャー投資10年のふり返りと所信表明〜

こんにちはW venturesに参画した服部です。

VCでのキャリアも気がつけばちょうど10年になります。私はこれまで金融系VCと独立系外資VCの両方を経験し、その中でシードからレイターステージまで約50社の投資を行い、VC毎の特徴や考え方や、投資先企業の管理方法や出資者対応等様々なケースを蓄積してきました。多くの尊敬する投資家の皆さまがいる中で恐縮ですが、ここから始まる新たな10年に向けた所信表明も兼ねて、これまでのVC投資において大切にしてきたことや、目指すべく姿について、起業家や投資家の方等これからも一緒にお仕事していきたい方々に向け綴ってみたいと思います。


2010年、三井住友銀行のグループ会社であるSMBC Venture Capitalへ異動したことがVCでのキャリアの始まりです。ちなみに2010年という年はいわゆるリーマンショックの真っ只中で、VC投資もまさに冬の時代でした。資金調達する企業の数や金額も今とは全く異なりIPOを果たす企業も年間20件前後でした。投資環境は、例えば2018年に上場し昨年時価総額500億円を達した投資先を例に取ってみると、シリーズB(MRR2-3M程度で今でいうシリーズAの手前くらいのイメージ)でPost時価総額約5億強、調達金額1.5億円といった相場感で、振り返ってみるとそれでも株価が高いと言われたり、数億円調達した企業が話題になるような時期でした。VC業界全体のマインドも新規投資というよりも、どちらかというとポートフォリオの一部流動化を進める向きが強く、私はセカンダリー案件を取りに行ったり、引き継いだ先の売却交渉を行っていました。


一方、昨今はマーケットの追い風もあり、当時と比べて優秀な起業家やスタートアップに参画する大企業出身者の方々が増え、投資家側も独立系VC、CVC、エンジェル投資家等、資金の出し手が増えたことにより、業界全体が底上げされたことは、この業界に携わるものとして嬉しい限りです。



◼️投資家として大切にしていること

私がこれまで投資をするにあたり大切にしてきたポイントについて考えてみました。出会った際と投資をすると決めた後の検討の入り口と出口で二度確認していることですが、「何をやるか」より、「誰がやっているか」という点です。所謂、良い経営者というのはスタートアップ経営で起こる幾多の困難に対し、立ち向かうだけの強いチームが作れ、周囲を巻き込みファンや応援者を増やし、多少遠回りしてでも最後にはその山を登り切ることができるからです。


「どんな人が良い経営者なのか?」という質問を受けることがありますが、それは見る人によって見方や求めるポイントも異なるため、型化や科学できるものではないと思います。しかし、強いてポイントを挙げるなら、


・この人は”もっている人”かどうかを感じること。例えばIPOに限らずとも結果を出せる人なのかどうか(最も言語化しにくい部分ですが直感に近いものかもしれません)

・モチベーションの源泉は何か。突き動かしている原体験やルーツは何か

・どんなリーダータイプなのか(人が付いてくる人なのかどうか、荒削りや多少無骨でも他を圧倒するだけの戦闘力タイプなのかどうか等)

・ファンダーマーケットフィットはどうか

・人の意見に耳を傾ける姿勢があるかないか


等を見ています。それが土台となり、初めて対象となる市場分析や、投資するタイミングが適切か否か等を判断しています。



◼️ファンダーマーケットフィットの必要性

これまで多くの素晴らしい起業家との出会いがありそれぞれが私の財産になっていますが、のちに自分自身のなかで投資する際のポイントの一つにもなった「ファウンダーマケットフィット」の必要性を理解するきっかけとなった印象的な出会いを紹介したいと思います。子育て保育領域のスタートアップのユニファ社長の土岐さんです。ユニファ社は、これまで累計60億円を調達しているスタートアップですが、私がご縁をいただいたのはまだ土岐さんが起業したばかりで初めてのVC調達を行うタイミングでした。

彼は起業準備として複数の事業プランを考えていて、最終的に出した答えの裏付けとなったのは、「自分が人生賭けてできるものは、その原点にあるものは何か」という考え方でした。自分の原体験や突き動かされるものでなければ、一度しかない人生の大切な時間を賭けられないと思ったそうです。だからこそ実際に保育園で働いてみたり、昼夜を問わず多くの保育士、業界関係者、子育て中の親に会い課題を聞き出し、良いプロダクトを作ることができるんだと思いました。その土岐さんのプレゼンを初めて聞いた時の迫力と、原体験から生まれる説得力、ビジョンの大きさに心を打たれました。

その後、DDの一環で彼が運転する車で1日何施設も地方の保育園を回らせてもらった時、大手総合商社、外資系戦略コンサル出身というキャリアの土岐さんでしたが、保育士さんや園長先生と接する姿や、プロダクトを説明する時の話し方、表情、空気感の作り方を見て、この人は周囲を惹きつけ周りから応援される力がある人なんだな、逆に営業色ギラギラの人だったら全く業界の人に受け入れられないんだろうなと、感じたことを鮮明に覚えています。土岐さんの例は一例ですが、これがファウンダーマーケットフィットで、プロダクトを作る人がその業界に受け入れられているからこそ、その業界が抱える本当のペインに辿り着くことができるんだと思いました。



◼️VCに入った頃に陥りがちだったこと

VCに入った頃、よく勘違いしそうになったことの一つとして、投資家から人気のある起業家は良い起業家なんだろうなと思ってしまうことがありました。人気がある起業家には当然たくさんのお金が集まり、名の知れた投資家なども参画していることもあり、どうしても良く見えてしまい、いつしかその会社に投資することや、そのディールに入ることが目的になってしまいがちです。自分の投資の軸を無視した投資の場合、経営者との”握り”も弱かったりするので投資した後に苦労することになったり、うまくいかなくなった場合、投資資金の回収は勿論のこと、大した経験にもならず結局何も残りません。

もちろんフォロー投資の場合などは協調する投資家の顔ぶれも重要な一つの投資判断にはなりますが、それでも大切なのは自分がその経営者に対してどう感じたか、どうしたいのか、何ができるのか、を軸に持てているかどうかだと思います。



◼️ブラしてはいけない投資の軸

まだまだ道半ばの私が言えることではありませんが、少しだけ言えることがあるとするならば、シード期に支援した起業家や他社VCが入っていないような投資先が、紆余曲折の道を経た後にIPO、M&A、大型資金調達を果たしたことや、シリアルアントレプレナーとなった起業家から、「また起業する時には最初に相談しますよ」と言ってもらえていることを振り返ると、自分が大切にしてきた投資の軸というのは間違ってはいなかったのかなと思います。


VCファンドは運用期間が10年と、とても足が長い事業です。投資先企業の業績が良い時、悪い時、組織、株式絡みで様々な事柄が発生します。そして残念なことに全ての投資先企業が成功するわけではなく、一定の割合でBad EXITとなります。
エクイティ投資というのは、銀行融資のように債権ではないため担保や連帯保証といったものは存在するはずもなく、社債に対しても劣後する回収順位が最も低いものです。運良くM&Aで買手が見つかったとしても債務の残債分のみの引受や、数ヶ月分の従業員の人件費分程度といった評価になることが多いです。所謂「売り」判断となった会社のほとんどのケースでは投資元本の回収は不可能となります。


綺麗事に聞こえるかもしれませんが、その時最後に残るものは、自分としてその人やチームに賭けた判断はどうだったか、この人が失敗するならそれは仕方ないと腹落ちできるか、次の挑戦も応援したいと思えるかどうかという気持ちだけだと思います。私も過去に経験したことがありますが、前述の通り人気案件や人気起業家だからといって目が眩み投資することがゴールになってしまうことがありました。このような他力本願な投資判断の場合、投資後の起業家とのグリップも弱かったり、失敗に終わった時には次には何も繋がらないのです。



◼️投資家にも多様性が求められている

VCには様々なタイプの投資家がいて、それぞれの投資スタイルやバックグラウンドを持った人がいます。中にはどれだけ逆立ちしても真似できない様なハイスペックな方や、ロジカル且つ弁も立つ人なども多く、社会人になるまでスポーツの世界で生きてきた自分にとって時に不安に思うこともありました。しかし結果が求められるこの世界では必ずしもハイキャリアや高学歴、IQの高い人が成功するわけではなく(もちろん一定の知識や素養が必要ということは言うまでもなく…)、またスタートアップ経験やエンジニアバックグラウンドである必要もないんだと。起業家も投資家毎に求める内容やサポートも異なり、服部さんみたいな人って少ないですよね、相談しやすいです、頼りになります、など言っていただけることも徐々に増え、無理に誰かを真似ようとせず、自分は自分のスタイルで起業家に向け合っていけばいいんだ、VCにも多様性があって良いんじゃないかって思うようになりました。

私は企業を見るときの根底に、うまくいく会社、うまくいかない会社という視点で起業家を見ていません。理由はリスクを恐れず「起業」という決断をし、雇用し、世の中の誰かの役に立つものを作り、売上をあげる、これを果たしている起業家というのは大小関係なくリスペクトする気持ちを忘れずに接しています。銀行にいた時や、一部の投資家の発言を聞いていると、残念ながら企業を格付けや業績だけで判断したり、収益、投資対象にならないと卑下した表現で言う人がいますが、私はそれにストレスを感じてきました。リターン至上主義のこの世界において綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、資金の出し手も受け手もそれぞれがいなければビジネスになりませんし、うまくいこうがいくまいが、起業家にはまずは敬意を持って接するべきと心がけています。

色々な意見があると思います。でも起業家にも多様性があるように色々な投資家がいていいんじゃないかなと思います。



■ソウルインベスターでありながら常に企業ファーストの心構えでいること

私は、結果的に縁があった会社との関係において、良い時も悪い時も関係なく彼らを信じる「ソウルインベスター」でありながらも、一方で、近すぎず、遠すぎずの距離感を保ち、企業にとって最適な意見や方向性を導ける投資家でありたいと考え、心がけています。スタートアップ経営は生ものであり、起業家も投資家にも長い期間を歩んでいくことになります。それぞれのステージや局面で重要な意思決定や優先順位付け、投資家とのコミュニケーション方法なども刻々と変わっていきます。 VCに入りちょうど10年で、漸く一周経験した段階ですが、幸いまだ起業家とも近い年齢ですし、気軽に相談できる相手になれたらいいなと思っています。



■原点回帰の気持ちを忘れない

人は経験や実績を重ね歳を取ると自己肯定感が強くなる傾向にあると思います。原点を忘れず小さなプライドや誇りは持たず、人の意見に耳を傾け日々の業務に邁進していこうと思います。フレッシュで大志を抱く起業家の皆様との出会いを楽しみにし、私も真剣勝負で挑めるよう投資感覚を研ぎ澄まし、自己研鑽していく所存です。

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