アニメ平成マネタイズ史について振り返ってみた

ご無沙汰しております。Wventures の高津です。
 
大変期間が開いてしまい申し話ありません。
 
今回は平成31年間におきたアニメのマネタイズ手法の変遷をざっくりユーザー視点で見ていきたいなと思います。
というのも、私自身ラブライバー※1なので最近定期的沼津※2に往訪しているんですが、ふと昔のアニメってこんなにオフラインに連れ出されたっけと思い、アニメのマネタイズ手段の変遷とかトレンドについて一度消化したいなと思った次第です。
全部語るとたぶん長くなりすぎて離脱率100%になると思いますので、90年代、00年代、10年代の3パートの特徴的な部分だけかいつまんでお話したいと思います。
■90年代
 
もはや、若い世代からは平成アニメと認識されてない可能性もある区分ですが、きっちり平成アニメです。
90年代の特徴として、ビデオテープの再生機器の普及があります。総務省統計局の調査によると85年時点では27.8%だった普及率が、90年には66.8%まで上昇しております。
それに伴い、アニメのマネタイズ手段は80年代以前に主流だったスポンサー収入と玩具の売り上げというところから、ビデオの販売へと大きく変わってきます。
(そういう意味だと、サザエさんは東芝が下りた後もスポンサー収入を主軸にする生きた化石といえそうです。)
 
 
ビデオ販売によるマネタイズが一般化するとスポンサー料からの制作費の捻出に頼らずともビデオグラムの販売会社等が直接出資してアニメを作ることが可能になりました。この方式が現在アニメ制作の根幹を担っている製作委員会方式と呼ばれるものの始まりだそうです。
 
その結果、規模を増してきたのが深夜帯のアニメです。スポンサーが不要となったこと、また当時高価だったビデオテープを購入してもらうことを念頭に置くと、成人向けのディープなアニメを作る必要が出てきた、作れる環境が生まれてきたのです。
 
そんな、90年代を代表する作品といえば「新世紀エヴァンゲリオン」ではないでしょうか。もともとは18時台に放映されていたのですが、増加するアニメ作品に追いやられるように深夜帯へ移行すると人気は爆発。当時は社会現象とまで呼ばれました。エヴァの登場を機に深夜アニメの認知度も一気に広まったといいます。
マネタイズの面でもVHSの販売からリマスター版・コレクターズ版の販売というトラディッショナルなマネタイズ手段のみならず、ストーリーを一新した新劇場版の作成やパチンコとのタイアップ、舞台である箱根の聖地巡礼企画、各種ファッションブランドとのコラボや、最近ではEVAブランドの自転車やアウトドア商品の展開と本当に金の亡者コンテンツです。ただ、もともとは純粋なアニメ原作のロボットアニメとして制作されており、ここまで大規模なマネタイズ手段を最初から想定されたプロジェクトではありません。そういう意味では、アニメ―ションマネタイズの時代の変遷をたどってきた面白い作品としてもとらえられるかもしれません。
 
その他、今も動きのある作品で言うと、公道レースアニメ「頭文字D」の登場も90年代の深夜帯です。この作品は日本アニメにおけるCG技術の向上の歴史そのものなので別視点からも語りたいのですが、あまりマネタイズに関与しないのでまたの機会に・・・
 
しかしながら全体的には「カードキャプターさくら」・「セーラームーン」・「スレイヤーズ」等まだまだ全日帯アニメの方が主流で深夜帯アニメは今よりずっと一部の人のものであったようです。※とはいえ、上記の作品はすべて当時から成人ファンが非常に多いため、追いきれてないですがマネタイズ手段は深夜アニメに近いものがあったかもしれません。
■00年代
 
00年代の特徴はアニメの制作本数の増加に伴う多様化と深夜アニメの本格展開といったところでしょうか?一般社団法人日本動画協会のレポートによるとアニメ制作本数は00年から06年にかけて急激に伸び、ざっくり2倍程度にまで伸びています。それに伴い、ビデオパッケージ市場も大きく売上を伸ばしています。90年代に育ててきたマネタイズ手段が花開いた年代という感じがします。
一方で、2010年以降は制作本数は伸びているにも関わらずビデオパッケージの売り上げは下がっていることからも、10年代以降はまた違うマネタイズが生まれていることが予測されますが、それは次の項目でお話します。
この作品多様化の影響として大きなトピックとしてあげるならば、00年代前半はいわゆる萌えアニメの増加、後半は日常系アニメの誕生と普及ではないでしょうか。

まず、萌えアニメの普及ですが、「萌え」という単語自体は90年代前半のパソコン通信の時代より使われていることが確認されています。一方で流行語大賞に選出されたのは2005年のことになります。このことからも00年代前半が「萌え」という単語の普及期だったと考えられます。そして実際に、当時流行していた作品を思い出してみると、「ラブひな」「まほろまてぃっく」「ちょびっツ」「ギャラクシーエンジェル」「デ・ジ・キャラット」などなど、古き良き萌えアニメがひろがります。いわゆる電波ソングなどが普及し始めたのもこのころです。

90年代以前には一部の人だけが、ある種見出す形で感じていた萌えという感情を、コモディティ化し作品のコアバリューに据える動きが出てきたというわけです。
 
このころのマネタイズとしては円盤(DVD)に販売店(アニメイトやまんだらけ・とらのあな等)ごとに異なる特典を付け大量買いさせる手法を多くの作品がとっていた記憶があります。後半にいくにつれ、マネタイズは多様化していきます。具体的にはキャラソンなどOP・ED以外のアニメ関連CD販売の台頭。声優のタレント化などです。
 
キャラソンとして大きな売り上げを最初に記録したのは「魔法先生 ネギま!」ではないかと思います。
たしかオリコン入りしたためにミュージックステーションで取り上げる必要ができたのですが、当時Mステも視聴者も慣れておらず腫物を触るかのような扱いでお茶の間を凍らせていた気がします(笑)。
また、声優ネットラジオ大手の「音泉」の設立も2004になります。ぶっちゃけ昔から声優ファンっていたのですが、このころからライトな声優ファンが増えてきた気がします。
そして00年代後半にかけてのビッグウェーブは日常系というカテゴリーの誕生でしょう。
90年代にはほとんど見られなかった日常系作品が多く生まれました。有名どころだと「苺ましまろ」「ひだまりスケッチ」「みなみけ」そして「らき☆すた」というところでしょうか。これらの文化が、2010年代を彩る「きんいろモザイク」や「のんのんびより」「ご注文はうさぎですか?」「キルミーベイベー」につながっていきます。
 
そしてなにより、上述の「らき☆すた」が聖地巡礼ブームの火付け役となるのが最も大きなトピックだと考えております。聖地である鷲宮神社のお正月3日間の初詣客は放送前約9万人だったものが放送後30万人にまで増加しました。またその後も順調に伸び続け2011年には47万人を記録。放送から10年以上たった今もそれほど数字は落ち込んでいないと同市の商工会議所職員は語っています。
これらの成功を受け、10年代に入ると「ガールズアンドパンツァー」では町おこしの役割を担い、「君の名は」により一般認知が進み、「ラブライブ!サンシャイン!!」で聖地巡礼マーケティングはパッケージ化されました。
 
こうした動きはアニメファンや制作サイドだけでなく、地元商店街・企業・自治体の協力が無ければ成しえません。そうしたステークホルダー全体の意識変容が起きてきた始まりが00年代後半といえるかと思います。
■10年代
 
10年代の環境の変化で最も大きなトピックはスマホゲームの台頭とライブ等の興行収入の増加でしょう。
スマホゲームに関しては10年代初頭よりパズドラ・モンストなどを筆頭に多くに人気タイトルが生まれ、様々なアニメIPとコラボを実施しております。そういった形でのマネタイズも可能になったのはアニメ業界にも追い風かと思います。また、一般社団法人日本動画協会のレポートによれば、アニメ産業市場に2013年からライブエンターテイメントという項目が生まれてきています。まだまだ、他の項目と比較すると小さい規模ですが、その熱量は高く新たなマネタイズ手段の登場という意味では非常に大きな転換点と考えています。

このスマホゲームの台頭とライブエンターテイメントの収益化の両方を狙いにいったのが、10年代の音楽系アニメの特徴です。「ラブライブ!」シリーズ「BanG Dream!」などはその最も成功している事例でしょう。

一方、00年代最後で最大の音楽アニメ「けいおん!」はさいたまスーパーアリーナで3万人動員のライブイベントをもやるもそれっきりです(10周年企画があるので何かあるのかもしれませんが)。これはおそらく、キャラソンまではマネタイズ手段として思い描いていたが、ライブ構想はおそらく描き切れておらず後発的に実施したためではないかと推察しています。その根拠は担当声優がキャラクターの担当楽器を演奏できないという点です。「ラブライブ!」や「BanG Dream!」は基本的には完全再現です。(当然録音な部分などありますが)

■総括
 
特徴的なマネタイズに絞っているので、ほとんどアニメの歴史には触れてないのですが意外と長くなってしまいました。特に10年代に記述がスカスカなのはほんとに申し訳ないです。
マネタイズ手法の変遷としては、ざっくり言うと「モノからコトへ」「OtoO」といった動きが平成30年間の間に起きてきたことが読み取れます。また、制作単価の高騰からより大きく多様なマネタイズを狙っていけるコンテンツ作りにシフトしてきている向きもありそうです。ただこれは何もアニメ業界に限ったことではないのは皆様もよくご存知の通りです。つまるところ、アニメや漫画二次元コンテンツ領域だからと言ってなにか特殊なことがあるわけではなく、むしろ標準的なC向けマーケットとして捉えるのがよいのかなというのが僕の現状の考え方です。
今回はほとんど触れていませんが、他の業界同様マネタイズ手法よりも重要なのはトレンド感のキャッチやコアバリューの定義だと考えています。近年はVtuberの台頭なども含め二次元コンテンツのクオリティはうなぎのぼりとなっております。やはり問われるのはそのコンテンツはどんな人の何のニーズに応えることでバリューを出しているのか。というC向けサービスならごく当然のところに帰結するのではないでしょうか?
 
最後までお読みいただきありがとうございました!
 
 
※1・・・アニメ「ラブライブ!」シリーズのファンの総称「ラブライブ!サンシャイン!!」のファンについてはサンシャイナーという呼び方も存在するが普及率は低め
※2・・・アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」のメインとなる舞台は静岡県沼津。アニメ内でもその町並みは完全再現されており聖地巡礼のスポットとしては最も熱量の高い街の一つである。

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