ベンチャーの終わり -ベンチャーキャピタリストとしての原点-

いまの投資先の皆さんや、これから投資をさせていただくかもしれない
起業家の皆さんに私の投資家としてのメンタリティや原体験を伝えたくて筆をとりました。
 
私の投資家としての原体験は、事業会社時代に遡ります。
 
当時は投資家、ではなく、事業会社の事業開発担当として投資をし、
ベンチャー企業をサポートする立場でした。
正直、投資をする人としては全然初心者でした。
 
当時の上司が、あるコンシューマー向けのサービス企業に投資をするので、
一緒にみてほしい、というのがはじまりでした。
 
その起業家はすごくビジョナリーで、流暢に今後のビジネスや、業界展望を語り、私にとっては非常に眩しい存在でした。
(私は1度、起業チックなことで失敗した経験があり、それも影響していたと思います。それはまた別途機会があれば書き起こしてみたいと思います)
 
大型の増資が完了し、いざ、事業支援をはじめてみると、残念ながら計画の通りにはまったく進みませんでした。
 
状況を打開しようと、様々な施策が講じられました。
 
その会社のみなさんはすごく頑張られていました。
私も、私の上司も部下も最善を尽くすべく、頑張っていました。
 
大型増資で、人員採用を積極的に行ったものの、組織がまとまりを欠いており
正常にサービスが作れておらず、組織再編を行う必要がありました。
しかしながら、みんなが打開策としてベストと思って進めた、
組織再編も、むしろ状態を悪化させてしまっていました。
 
あるとき開かれた歓談を目的とした飲み会が非常に重たい空気だったことを今でも覚えています。
 
それでも起業家は前を見ていました。
それだけが救いでした。本当につらい状況が続く中、明るく、次、を話してくれました。
 
しかしながら、キャッシュはどんどん減っていき、事態は深刻になっていました。
次のサービスが不発に終われば会社が存続できるかどうか、というタイミングがやってきていました。
 
そんな中、我々とのミーティングを終えて自社に戻っていくときに、いつもは明るく、元気に前を見ていた起業家が、
ぽつりと、私に、いつもと違う、弱い言葉を吐露したのです。
私はその瞬間、ぐるぐる考えた挙句、何も応答することができませんでした。
 
厳しい状況を目のあたりにしながら、一方で、私たちの支援チームは次のサービスについて、「次は当てられるのでは」という手ごたえを感じていました。
 
もちろん、コンシューマー向けのプロダクトですから、出してみないと、当たるかなんてわかりません。
しかし、これまでの反省は生かされており、直近のトレンドも捉えられており、そのチームにはよいチームワークがあるように見えていました。
事業会社として、我々はサービスリリース後のサポートの準備をできうる限り進めました。
 
その後、プロダクトはリリースされ、これまでとは見違えるKPIを達成し、
そのベンチャー企業は生きながらえました。
とても嬉しかったのを覚えています。
 
そして、紆余曲折を経て、その会社は上場を果たしました。
 
私がこの経験から学んだことは3つあります。
 
1つ目は起業家が諦めたとき、ベンチャーは終わるということ。
起業家が諦めない限り、ベンチャーは終わらない、ということ。
 
うまく行かない結果が出始めると、諦める人が出てきます。人も辞めます。
どんなに強いチームでも綻びが出始めます。やめる理由のほうがたくさんあり、続ける理由を探すほうが難しいのです。
しかしながら、起業家が諦めなければ、ベンチャーは続いていく。
起業家が諦めない限り、私も諦めない投資家でいなければと思っています。
 
2つ目は、撤退についてです。
当時私は事業会社の立場で投資をしていたため、その事業から撤退をし、
ほかの事業へ向かうことを勧めるというオプションを持てていませんでした。
結果的にうまくいったからよかったものの、勇気ある撤退が大事、というケースもあると思います。
冷静に振り返ると、当時は市場が極めて拡大し続けており、ベンチャーにとってはチャンス溢れるタイミングでした。
一方、そういう局面でなければ、無理な追っかけが致命傷になり、無念にも
会社が続かない、ということになっていたかもしれません。
撤退の判断はすごく難しいですし、結果でしか正しさなど証明できないのだと思います。
ただ会社と事業と心中している起業家より、ある程度客観的な立場として、局面を見定め、
起業家とそれをコミュニケーションできるような人でありたいと思っています。
 
3つ目は厳しい局面で、なんと声を発するのか、ということです。
あのとき、弱い言葉を吐露してくれた起業家になんと声をかけるのが正解であったのか、無言で正解だったのか、結果的にうまくいったのだから、
正解だったのだろうと思うのですが、できれば、よりよい言葉を発せられる投資家でありたいと思っています。
まだまだ全然できてないですね(苦笑)
 
今もなお、私も研鑽中ですので、偉そうに言えることは全然ないなと思いつつ、
どういうことを考えながら投資をさせていただいているか、サポートをさせていただいているか、
伝える機会もなかなかなかったなと反省して、書いてみました。
 
ちなみに、私がベンチャーキャピタリストとして修業させていただき、影響を受けている前職の「ベンチャーキャピタリスト十二訓」がこちらです。
https://www.globiscapital.co.jp/ja/about/value/
 
これからも起業家のみなさんと一緒に、がんばりたいと思います。

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